『ふしだらな陰の中で、僕は自分の姿を見た』
「それ、どういうこと?」
彼女はそう問いかけた。
「ボクにもわからない」
そう答えたボクに向けた彼女の顔は、怒っていたような、いたずらな笑顔を向けていたような。
誰だって答えがわかれば苦労はしない。
いや、そうだろうか。
答えがわかっても苦労はするのかもしれない。
答えがわかれば別の苦労が待っているのかもしれない。
そう考えてしまうボクは、ネガティブという烙印を、会う人全てに指で描かれるんだ。
彼女の顔が笑顔なのか、それとも彼女の笑顔はボクに向けられていたのか。
「ねぇ」
彼女はまたボクに問いかける。
「どういうことなの?」
「そういうことだよ」
ボクも彼女の真似をした。
怒ったような、いたずらな笑顔なような。
そんな表情を作ることなんてボクには出来ないのに。
ボクはずっと彼女を見ていた。
彼女もボクをずっと見ていた。
そうボクは思っていた。
いや、そう思い込んでいた。
ボクと彼女との距離、少し縮んでは少し膨らんで。
でも、少しずつ、そっと、そっと、前を歩いてきていたのに。
ボクと彼女との距離なんて、最初からなくて。
ボクと彼女との間には、ガラスの板があっただけだった。
気付いてなかったのかって、ボクの中のボクに問いかけた。
気付いていたさ、って、そう答えるけど、そう答えたいけど。