悲しみの果てに、死者の群れをお願いします。

演歌・オブ・ザ・デッド 公式サイト(2005-2019©りょんりょん) ※映画感想dis blogです。かなりdisってるので、不快になられた方にはお詫び致します。

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きみの鳥はうたえる

とてもとても素晴らしい映画でしたが、ちょっとdisったりもしてしまいました。ネタバレも少ししてるかな。

 


 本当に素晴らしい映画でした。あまり期待はしていなかったので、不意打ちを食らってしまったような感覚が、心の中で残ってしまっていますが。この映画は、奇跡的な部分、意図的な部分、それらが混在した部分が、本当にうまく溶け込んでいると思います。『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』と同じ匂いというか、香りがする映画にも感じました。こちらにも石橋静河さんが出演されていたなぁ。

 原作は未読ですが、映画化にあたって舞台を東京の国立近辺から函館に変更したそうですが、別に函館じゃなくてもいいよねっていうのは、言ってはダメですよね(笑)。

 ミニシアター(函館のシネマアイリス)が出資して作られた映画ということの影響も大きいのか、ミニシアター病に罹患しているっていうのはいつもなら弱点になるんだろうけど、この映画は、それすらも主人公の一夏の変化を描き出す過程の一端として効果を発揮しているような気がしました。

 主人公は、最後は自身が忌み嫌っていた面倒臭い奴になってしまうのですが、その過程の描写がよかったです(というか、その過程を提示する映画ですねw)。演じた柄本佑氏もよかった。自分でも気付かないうちに、面倒臭い奴に変わってしまっていたという、過去の自分からしたら屈辱というかイミフだろうし、今の自分からしたら正直な気持ちだろうし、なんかそういう自分自身でも理解できない、受け入れられないという感情を、素直に画面に焼き付けていたと感じました。血が通ってないロボットが、血肉に塗れた人間になっていく物語というのでしょうか。

 染谷将太氏も、これまた流石の演技でした。彼の演技スタイルは、映画の中のキャラを役者が演じるというよりかは、映画の中のキャラを染谷将太という役者に近付けるという形ではないかと思います。こういうタイプって、昔の三船敏郎石原裕次郎といった大スターから、今は織田裕二とか、要するに主人公又は主役を演じる役者じゃないと認められないスタイルだと思うのですが、それを脇役としてのポジでも発揮している彼の才能には驚くばかりです。仮にそういう役者を脇役に配置しても、主人公又は主役を喰うだけの存在にしかならない場合が多いので、新鮮に感じる部分もありました。

 石橋静河さんは、失礼ながら美人でもないし、といってブスでもないんだけど、なんか惹きつけられる容姿をお持ちだと思います。凄く存在感を画面に焼き付けたかと思ったら、彼女のいない場面ではさらりと存在を隠したりもできる(それまで画面内にいて染み付いていたはずの匂いがあっさりと消えてしまうような、でも影が薄いとかでもないんだよなー)、これまた凄い役者さんだなぁと。

 ただ、一つdisらさせてもらうと、主人公も、そして静雄も佐知子も、そんなに裕福ではないと思うんですね。本屋さんのバイトは交通費も別途支給ではなく給料込みが多いようですし、本屋でバイトされてる方には失礼な言い方になりますが、給料自体もそんなに多くはないだろうし(知人に本屋でバイトしていた人がいたので、少し実情を聞いたことがあります)。月給も手取りで12万円くらいではないでしょうか。でも、映画の中の生活水準をキープするには、手取りで20万円は最低ないと無理だと思うのです。それなのに、お昼はパン屋さんでランチとか(パン屋さんのパンって案外高いんですよ、おいしいけど)、毎日飲み歩いて、更にビリヤードしたり卓球したりダーツしたりと、どこからそんなお金が出るんだよ、と。

 私は今も貧乏ですが、昔はもっと貧乏でした。仕事をしていない時期もかなりあるという、主人公達と同様の環境だったことがあった経験から、こんな生活はできないよなと昔を思い出してしまい、映画の世界から急に現実の世界へと引き戻されてしまうって部分が幾つかありました。これは、この映画の最大級の弱点だと思います。私だけの問題なのかもしれませんが。

 リアルに貧乏生活を描いたからいいって訳じゃないのは分かりますし、映画的な見栄えも必要だし、原作もそういう展開だったんだろうということは想像に難くないですが、実際には気軽に茶店なんて行けないし、缶ジュースとか買うのも逡巡が必要だったし。こういう、映画の世界ではあるけど、現実のリアルさを設定の中に組み込む系の映画としては、この辺りの線引きや表現って難しいでしょうし、観客のバックグラウンドまでいちいち気にしてられないのは分かります。単に、私にとってのマイナスポイントのツボに嵌ってしまったって感じ、というのも理解はしてるつもりなのですが……。

 小説なら問題ない描写だけど、映画となったときに問題になってしまう描写ってあると思うのです。端的に言えば、貧乏生活を知らない人が、貧乏生活を想像したっていう気持ちがどうしても拭えないのです。あ、なんか熱くdisってしまってる(笑)。面倒臭い奴だ、俺は。

 それでもこの映画は傑作だと思いますし、私は大好きですよ。パンフレット買ったもん。特に、最後の場面の佐知子の表情は、「あー、めんどくせー」とか「えっ、なんで?」とか「いや、もう遅いし」とか、諦念以外の感情が行ったり来たりしている絶妙さを映し出していたし、この表情を奏でる石橋静河さんを観るだけでも、入場料分の価値はあるかと思います。