悲しみの果てに、死者の群れをお願いします。

演歌・オブ・ザ・デッド 公式サイト(2005-2024©りょんりょん) ※(主に)映画感想dis blogです。かなりdisってるので、不快になられた方にはお詫び致します。ごめんなさい。

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君が生きた証

映画の根本に関わるネタバレしてます。


映画『君が生きた証』公式サイト



監督・脚本:William H. Macy
脚本:Casey Twenter 、Jeff Robison
出演:Billy Crudup、Anton Yelchin、Laurence Fishburneほか



 最初は、「この映画も音楽を通じての再生ストーリーかー。観なくていいかなー」なんて思っていたのですが、同じようなテーマの『はじまりのうた』が素晴らし過ぎたこと、予告編を観て不穏な空気(というか、再生だけがテーマじゃないっぽいような)を感じことから、観に行って確かめてみようということで、突撃してきました。

 突撃して良かったです。これまた素晴らしい映画でした。主人公役のビリー・クラダップさんは、ボクの中では今、かなり信用できる役者さんになっています。

 簡単なあらすじは、主人公の大学生の息子が、大学で起きた銃乱射事件で亡くなって、主人公が落ち込んで自暴自棄になったところを、息子が残していた自作の音楽と、息子と同年代の青年との出会いとバンド結成によって、やっと前向きに生きていこうとするっていうものです。

 主人公の息子は、前述のとおり、大学で起きた銃乱射事件で亡くなるのですが、この設定が曲者で、実はその犯人が主人公の息子だったのです。主人公の息子は、同じ大学の生徒6人を射殺して、(おそらく)自殺したのでした。

 主人公は、エリート広告マンでありましたが、こちらも自分から辞めたのではなく、クビになって(だと思います)、豪邸も売り、ヨットで酒浸りになって生活するようになっていました。

 主人公は、最初は息子の自作曲を、息子と向き合うつもりで自分で歌うことにしましたが、それに感銘を受けた、息子と同年代のクエンティンと出会って、彼にほだされてバンドを組み、その活動が軌道に乗ってくることで、自分の置かれた境遇を忘れるというか、息子が生きていればこういう生活もあったんだなっていう空想の世界に逃げ込んだじゃないかな、とボクは思いました。

 主人公にとっては、事件に向き合うことができず、被害者の親に会うこともせず、ただただ、自分の中で形成された息子を追い求めようとしてしまったが、それが結果的に、クエンティンをも傷付けることになったとき、やっと、事件と、そして、本当の、自分の中の理想や空想ではない、現実世界に生きていた息子に向き合おうとする決心が着いた。

 ボクは、そんな映画だったと思っています。

 ごっつ重たいテーマですが、映画自体は重たい空気はほとんどなく、軽快なノリとテンポで進んでいきます。ただ、そのためか、余計に主人公の悲しみみたいなものが浮き彫りになるのですが、ここは、ビリー・クラダップさんの抑えた演技とも相俟って、主人公の再生というテーマにうまく乗れたんじゃないかなと、ボクは思っています。

 映画の作り方も、主人公の息子が加害者と分かると、あの場面はそういう意味だったのかとか、そうだったのであの展開があったのかと唸る部分が多く、構成にもきちんと気を配って作られた映画だと分かります。それがこの映画で一番肝心なところですしね。

 被害者の遺族視点の映画じゃなくて、加害者の遺族という視点の映画って、寡聞にして存じませんが、珍しいと思いますし、映画の構成上、主人公は被害者の遺族側の立場であるというミスリードを誘うものになっていますので、反対側の立場であると分かったときの感情の揺さぶられ方は重く心に残って、色々とあとになって考えています。

 個人的には、重大犯罪の加害者に人権は必要ないとは思いますし、加害者側の遺族は逃げることなく、被害者の遺族に対応しないといけないとは思います。ただ、加害者側の遺族には人権もあり、加害者本人がある程度の年齢のときは、加害者側の遺族だというだけで追い詰めてもいいのか、という考えが過るようになりました。加害者との付き合いの度合いにもよりますしね。特にある程度の年齢に達していれば。

 ちょっとどうかなと思ったのは、主人公の元配偶者(息子の母親)が、息子のしたことを乗り越えるため、(おそらく)今の配偶者との間に、20万ドルもの費用を掛けて子供をもうけていたという設定です。

 役者さんの外見と、ビリー・クラダップさんの外見からすると、おそらく年齢設定はアラフィフではあるので、強ち20万ドル掛かったっていうのも設定的に事実であったろうし、年齢的な不安、負担も大きかったのがお金が掛かった理由と想像できますが、自分が息子のしたことを乗り越えるためだけに子供をもうけるということが信じられないというか、ワガママ全開というか。

 その子供が大きくなったらどうするつもりなんだろう、かと考えると、なんか身勝手にもほどがあるって思いましたね。それに、その20万ドルを遺族に寄付しろよって思ったりも。

 一番良かった場面は、ヨットの帆先に立ってエレキギターをかき鳴らしながら、停泊している湖で開催のヨットレースに参加しているヨットの群れの中に突撃していくところですね。リアルマクロスアタックじゃないですか、それって。

 音楽も素晴らしく(サントラは買う予定です)、役者が自ら演奏したりしてるみたいなので、こういうのって良いよなぁって思います。