悲しみの果てに、死者の群れをお願いします。

演歌・オブ・ザ・デッド 公式サイト(2005-2024©りょんりょん) ※(主に)映画感想dis blogです。かなりdisってるので、不快になられた方にはお詫び致します。ごめんなさい。

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本心

ラストのネタバレがありますが、disってはいないと思います。

 

TOHOシネマズ新宿にて鑑賞

 予告編から受ける想像からはかなり異なりましたがよかったです。ただ、ちょっと重たいというか閉塞感というか抑圧されている感が凄いというか。そして、純愛映画です。ラストは素晴らしい。こういうラストは大好きです。

 A.I.となった主人公の母親が暴走して云々っていう近未来SF映画かなと思ったけど、そうじゃなかったぜパターンでした。どちらかと言えば、A.I.で作られた主人公の母親は物語の潤滑油的な役割を持たされているだけで、出番が凄く多いというわけではありません。勿論、重要な役ではありますが。

 結局、母親の本心というものは、主人公達が仮想で作り上げていったものでしかないということもあるけど、それに振り回されてしまう危なさもあるんだよというメッセージなのでしょうか。

 人は他者(家族とかも含めて)の本心を知りたいと思いつつ、自分の本心は他者には知られたくないという気持ちをおそらく誰もが抱いていることでしょうし、他者の本心を知ったとしてもいいことが起こるとも思えないというのも誰しもが思ってはいることでしょう。でも、それでも他者の本心を知りたいという欲望、というか本能。それを可視化した映画とでもいいましょうか……。

 現実感があるというか妙に生々しく表現されている部分と、近未来という設定にしたからか(A.I.とかの設定ではなく)、そこの表現の部分に質感の差が意図せずにあったような気はして、そこが少し物語を停滞させてしまったような気はしました。

 本作と同じく池松壮亮さんが主演の映画『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』と同じ匂いがある映画に思えました。それから、映画『ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ』での残像がまだ強いというのと、主人公が抱える抑圧された閉塞感からか、池松壮亮さんがこのあとに凄腕の殺し屋になるというお話に繋がるんかなと勝手に思っていました(笑)。

 本作は一応近未来(今から3年後くらいの世界が舞台)SFということでいいのかな。本作に登場したVF(バーチャルフィギュア)やリアルアバターなんて、数年後には実用化というか商品化されてそうです。特にリアルアバターなんて、今すぐにでもやり出すスタートアップ企業が登場しそうというか、もう似たようなのがあるんちゃうんかな。

 何気に豪華キャストの無駄遣い(←褒めています)だったりもします。田中泯さんや綾野剛さんなんて一場面だけですし、予算面とかから考えたら彼らである必要はないとは言えますが(俳優さんがどうこうという意味ではなく)、彼らだからこそ画面にその登場人物がしっかりと焼き付けられているという側面があります。

 豪華キャストにしたのは原作ではもう少し出番があって、主人公との絡みも本作以上にあり、主人公に何らの影響を与える役なんだけど、映画としてはそこまで踏み込めない、描く時間がないということで力のある俳優さん(豪華キャスト)でそれを補ったということなのかな。

 妻夫木聡さんと仲野太賀さんは一応出番もそれなりにありますので、豪華キャストではありますが、無駄遣いではないでしょう(笑)。

 原作は未読ですが、本作内での設定とかは以下で合っているかな。

①本作の舞台の年代は2027年頃から2028年頃まで。2025年の夏に主人公が事故って一年近く病院で意識不明となり、それから更に一年経過した時期からスタートということから。

②お金持ちと貧乏人とが現代社会以上に乖離、断裂しており、貧乏人はおそらく社会的底辺から這い上がることは至難の業というか無理っぽい印象。特に日本では。

③主人公の母親は自由死を選択しようとしていたけど、亡くなった原因は捨てられた黒猫(シュレーディンガーの猫の暗喩かな)を助けようとしたための事故死だと思われます。

④主人公の母親は同性愛者で、どうしても子どもがほしかったことから精子の提供を受けて主人公をもうけた(提供者は明らかにされず)。

⑤主人公は高校生の頃に好きだった女子生徒がいましたが、彼女は貧乏だったことからセックスワーカーとして働いていて、それを苦にして自殺(なのかな?それも主人公の目の前で)。落ち込む主人公を高校教師が揶揄したことから激情し首を絞めてしまい、この事件がキッカケで高校を退学に。

 ただ、主人公の友人である岸谷が言うようにそのことで前科持ちになっているのか、それとも岸谷が主人公を揶揄するためだけに言っているのか(最終的に犯罪扱いにはされなかったという意味で)。

 主人公が好きだった相手は自殺したと思えるんだけど、岸谷の言葉や母親の言葉から生きてはいるのかもしれないのかなとも思えたり。よく分かんなかったっすね。

⑥三好彩花は主人公が好きだった女性と同じセックスワーカーの仕事をしていたけど、単に似ているだけで同一人物ではない。母親と同じ職場ということは、母親もセックスワーカーだったということなのかな。この辺りもよく分かんなかったっすね。

⑦主人公は凶状持ちの気があります。激昂したら相手の首を絞めてしまう癖があるので、普段は感情を押し込めているタイプです。

----以下、ラストをネタバレしています。----

 主人公は三好彩花の今後を考えて、自分の心を偽り、奥底に押し込めて彼女に素っ気ない態度を取り、彼女が去って行く(他人のプロポーズを受ける)するのを見送ります。主人公は母親のVFに重要な話はなんだったのかと尋ね、母親が自由死を選択した理由(今が幸せなので、幸せなときに死にたい)と、主人公を生んでよかったと思っていることを聞かされます。

 それを聞いた主人公は空に向かって手を伸ばしますが、その手に触れるように戻ってきた三好彩花の手が添えられようとして映画は終わります。

 これだよ、こういう匂わせな終わり方はいいんだよ。美しい終わり方でした。もうこれ以上の言葉も映像も必要ないでしょう。映画だけどさ(笑)。

----ラストのネタバレはここまで----

 原作からは舞台の年代が変更されたり、色々と主要とも思えるキャラがいなくなったりとかあるようなので、原作ファンには薄味に感じられるかもしれないなとは思いつつ、映画としての正解は出せているのかなとは思います。(勿論、原作を改変するにあたって原作者の了承が得られているかどうかは最重要で、本作はおそらく原作者の了承は得られていると思われます。)

 個人的に「自由死」には賛成です。単に生きろとか、生きていればいいことがあるって無責任に言うのは相手に対する暴力です。慎みましょう。