悲しみの果てに、死者の群れをお願いします。

演歌・オブ・ザ・デッド 公式サイト(2005-2024©りょんりょん) ※(主に)映画感想dis blogです。かなりdisってるので、不快になられた方にはお詫び致します。ごめんなさい。

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PERFECT DAYS

disってますね。ネタバレもしていますが、ネタバレ云々の映画ではないと思うので大丈夫でしょう。

 

 

MOVIX亀有にて鑑賞

 

 ヴィム・ヴェンダース監督の映画ってほとんど観たことはないのですが、舞台が東京ということと、登場人物のほぼ全員に日本の俳優(つか、主演の役所広司さんが出ずっぱりな映画なんだけど)が起用されており、戦後の小津安二郎監督の映画を思い起こさせるようなものという紹介も目にし、予告編も観て興味が湧いたので、公開初日に突撃してきました。公開初日に鑑賞っていうのは、コロナ禍以降初めてかも。

 観てよかったなとは思いましたが、面白かったのか、面白くなかったのかよく分かんないというか、掴めなかったというのが正直な気持ちです。

 一言で言えば、よくも悪くも俳優・役所広司のプロモーションムービーの粋を出ず、その域内の海の中を優雅に泳いでいたいだけだったという印象です。

 嫌味ったらしく書けば、シネフィル御用達の映画が爆誕といったとろこですね。シネフィルを名乗りたければ、この映画がよかったですとか高評価しておけば安全、安心です。

 また、頭の固い映画学校の生徒が作った映画って言われれば信用してしまいそうです。私の学生時代にもこういうタイプの映画をよく観た記憶があります(完成度や品質の差はかなり異なりますが)。

 先日鑑賞した『市子』もそうでしたが、映画における表現技能という部分ではかなり雑だったとは思うのですが、だからこそ語り合いたい映画ではあったと思います。

 日常感を繊細に描くんかと思っていたら、妙に生活感がなくて、ファンタジーにしか見えなかったんですよね。おそらく、こういった生活を実際にしたことがなくて、妄想、いえいえ、想像だけでやってしまったというのが原因なのでしょう。

 ファンタジーと感じた主な理由としては、主人公が映画の世界の中で生きていない、呼吸していないように思えたからです。あ、主人公だけじゃなくて、登場人物全員がそうかな。そういう映画というのを期待していただけに残念でした。

 薄給で蓄えも少ないんだろうけど金遣いが荒い部分とかがね、かなりな貧乏生活を経験してきた私からの視点では異様に見えたのです。ただ、その部分は後述する主人公の生い立ちに係る匂わせとも思えるので、この辺りをもう少し整理して丁寧に描いてほしかったかな。

 主人公の設定を詳細まで詰めずに、撮影しながら色々と調整して作り上げていったように思えました。その方法を否定したいとか悪いとか言いたいわけではなく、狭間に生きる人間の微妙な心のゆれや動き(それを木漏れ日や影の重なりと称しているのかな)を描きたかったのに、描写のゆれ(表記のゆれみたいなもの)があり過ぎて、どう捉えていいのか分からなかったんですよね。それが人間だろって言われればそうでしょうけど。

 こういう場合、ある程度設定や軸をしっかりとさせていないと、それが映画として表現したかった心情のゆれなのか、単に雑に描いた(または技能不足による)が故のゆれ(偶発的な表現)だったのか分からないんですよね。整合性も取れていなかったようにも思えます。

 不穏な空気感を醸し出したいかのような描写が幾度もありますが、必要でしたでしょうか。ドキュメンタリー映画で、関係ない場面を少し挿入するといった手法をよく見かけるのですが、それに似ているのではないでしょうか。あれって、閑話休題や箸休め的な意味があるんだろうけど、特に意味がないことが多いように思えます。

 主人公は街中の公共トイレの清掃を行う仕事に就いていて、スカイツリーが見える下町の風呂なしアパート(二階建て長屋、角部屋)に住み、自転車を浅草の繁華街で違法駐輪して地下街で呑んでたり(いろんな場所で自転車を駐めるという迷惑行為も実施、つか自転車も飲酒運転はあかんよね)、小料理屋の女将に少しホの字になっているのに元旦那が尋ねてきたところを偶然見てショックを受けてやけ酒したりしつつ、古本屋の100円で買える文庫分を愛読しており、60年代、70年代の音楽をカセットテープで聴いたり、毎日の昼食でお邪魔する神社の木々の境目から見える空をフィルムカメラで撮影するといった日常を過ごしていました。

 おそらくですが、主人公の父親は資産家で、主人公は跡取り息子だったと思うのですが、父とは折り合いが悪く確執もあったようで、10年位前に今の生活に辿り着いたという経緯ではないでしょうか。妹と姪がいますが、金持ちです。運転手付きの高級車で移動ですよ。父親は今は老人ホームにいるそうです。主人公の年齢ってもうすぐ還暦ってところでいいのかな。

 聴いている音楽とかのステレオタイプな偏見から、学生時代はサブカルに傾倒し、理想と現実のギャップ、もしくは自分の生き方と他者から期待される生き方にうまく対応できなくて、精神的な引きこもりと言いましょうか、自分の世界を作ってそこから出ることができなくなった人ではないかなと。

 最後の運転の場面で、主人公が少し泣き顔になっているのは、今の生活とは異なる生活だったらどうなっていたのかっていう想像をしているのか、これまでの人生を振り返ってやり直したいと思っているからなのか。はたまた、今はやっぱり幸せだよという感情なのか。どうなんだろう。

 私は、他者からは同じことの繰り返しのように見えるけど、主人公にとっては毎日が異なり、日々新鮮であるかのように受け取ろうとしていたけど、実際はどうだったんだろうかっていう疑問を心の奥底に仕舞っていたのに、それがここ数日の出来事に連動して湧き出てきてしまったんじゃないのかなと。そうすると、後悔、なのかな。否定的な後悔ではなく、前向きな後悔なんだろうけど。

 観客はかなり年齢層が高く(還暦オーバーだろう人がゴロゴロ)、かつての映画少年・少女だった人なのか、役所広司さんのファンなのか分からなかったのですが、平日なのに結構入っていてびっくりでした。まぁ、公開初日というのもあるのでしょうけど。